糖尿病内科医 松﨑 慈子(まつざき ちかこ)
2003年 徳島大学医学部 卒業
2011年 医学博士 取得
糖尿病は、血糖値が高くなることで様々な合併症を引き起こす病気です。血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌不全、作用低下によって起こります。遺伝的な素因に加えて、運動不足やカロリー過多、動物性脂質の過多などが原因と言われており、このような背景から世界的に糖尿病は増加傾向です。
急性の合併症と慢性の合併症に分けられます。
慢性合併症の多くは血管の動脈硬化によって起こるものです。
動脈硬化といえば、心筋梗塞や脳梗塞がよく知られていますよね?それに加えて、糖尿病があると、もっと細かい血管の動脈硬化も起こることが特徴です。具体的には、神経、眼、腎臓の合併症で、これらは糖尿病でしか起こらない動脈硬化と言ってよいと思います。
し(神経)・め(眼)・じ(腎臓)とおぼえるといいですよ。
その通りです!
今の症状を取り除く治療ではなく、将来起こるかもしれない合併症を予防するのが治療の目標です。
だから患者様方は治療をしている意義がピンとこない、とも言えるかもしれません。
当院では、なるだけ最新の科学的エビデンスに基づいて、このままの血糖値が続くと将来こんな合併症が起こる可能性がこのくらい増えますよ、治療をするとこのくらいリスクが減りますよ、と具体的にはっきりとお伝えするように心がけています。
食事療法、運動療法、薬物療法の3本柱です!
みなさんが一番ご興味があるのは食事療法かもしれませんね。
科学的エビデンスという切り口で言うと、生命予後を改善する食事療法は明らかになっていないと捉えています。しかし限定的な根拠を積み重ねることで、すこしずつ明らかになってゆくこともあり、糖尿病の治療ガイドラインの中で変更点が出ていています。
食事療法に限りませんが、ご年齢や体型、嗜好や価値観、運動量、合併症の有無などでおすすめの食事療法は異なりますので、それぞれの患者さんに合ったお食事を提案するように努めています。
栄養指導を担当する栄養士も、みなさんが実行、継続しやすいお食事を提案していますので気楽に栄養指導を受けてほしいですね。
そうですね。オーダーメイドの治療をご提案するためには、病院でぜひ、ご自分の生活のありのままをお話いただけると、私たち医療者も大変助かりますね。
みなさん、一度始めるとやめられないのでは?と心配されているようですね。
現在は早めにインスリンの注射を始めて、必要なくなればやめる方も多いんですよ。
生命予後改善や糖尿病性腎症を予防する根拠が示されたお薬もたくさん出ていますし、体重が減りやすいお薬もあります。それに、週に一度注射をする簡単な薬剤、デバイスも出ています。仕事の忙しい方、あるいは、認知症を合併する患者さんでは、介護者が注射するにも便利ですよね。
食事療法と同じですが、科学的根拠の積み重ねやテクノロジーによって、それぞれの患者様にあった無理のない治療を行えるようになってきているのを私自身も実感しています。
当院には、糖尿病療養指導士というライセンスを持った専門スタッフがリハビリテーション科、検査科に2名います。医療者が最新の情報を勉強することはとても大切ですが、ライセンスの有無にかかわらず、糖尿病に関わるスタッフのチームワーク、風通しの良さが一番の強みだと感じています。
それをよく表しているのが、名物の糖尿病教室ですね。今は新型コロナウイルスの流行で開催できませんが、多くの患者様に生き生きとした表情でお越しいただいており、そのお顔を見てスタッフも、もっと生きた情報をわかりやすく!と工夫を凝らして計画を練っています。
また、当院には眼科が併設されているため、糖尿病性網膜症、その他の眼合併症の診療に、血糖コントロール、腎機能がタイムラグなく反映されやすいと思います。眼科の中田医師とは糖尿病性網膜症、糖尿病の方の眼科手術についてよく相談しています。
このように、複数の視点は、合併症が多岐に渡る糖尿病診療において重要なことと考えています。
私自身も、糖尿病患者様の代弁者としての視点で、最新の情報をアップデートし、それを具体的にわかりやすく患者様にお伝えすることで、患者様が、ご自身にとってよりよい選択をしていただけるようにお手伝いしたいと思っています。